これもまた高校の時に作った短いお話です。
元は2ちゃんであった実話に私が著色した物です。
ある日僕は英語の授業で辞書を忘れてしまった。
幸いにも隣は幼なじみの晴子が座っており、いつものように僕は
「すまん、辞書みせてくれ」とたのんだ
晴子は「またか」と呆れるとも馬鹿にするともとれる表情で
「あんたは何回忘れ物すれば気が済むのよ」と言い「コーヒー牛乳で手を打つけど、どう?」と取引を持ちかけてきた。
晴子は小さな時から家が近所で、よく昔から遊んでいた。ヤンチャで男の子も平気で泣かすようなヤツだったが、正義感があふれ、気さくな話しやすい子ではあった。
「わかった、それで手を打とう。」僕はこの後先生にネチネチ怒られるよりは、ここで晴子の言う事を聞き素直に条件をのんだ方が得策だな、と考えた。
僕は晴子の机に自分の机を引き寄せ辞書をのぞく。先生が一度煙たそうな顔でこちらに一瞥をくれたが、その後、いちいち僕を叱る事の方が面倒だと言わんばかりのため息を吐いて持っている教科書を再び読み始めた。
僕はふぅ、と安堵の息を漏らす。すると晴子が
「少しは怒られればいいのに」とあからさまに不機嫌な顔をこちらに向けた。コーヒ牛乳の取引をしたはずなのにこんなにも嫌悪される覚えは無いんじゃないかと少し僕は腹が立った。
腹が立った僕は、晴子の辞書に悪戯をしてやろうと思い立った。
「ちょっと辞書見せて」そう言って辞書を自分の机に引き寄せた。なにも疑っていない晴子は横目でチラッと僕の机を見たが、また黒板の方に目を向けていた。その事を確認すると目的の文字を見つける為に辞書をパラパラとめくりはじめた。
「あった」とその文字を見つめる。そして僕は自分のペンを取り出し ”僕が取らずに彼女が取った方が明らかに効率のいい場所” をめがけて正確に、かつ自然に落とした。
「ごめん、拾ってくんない?」と僕は言う
「もぉ〜、自分で拾いなよぉ〜」と明らかにけだるそうな声でいいつつ、彼女は渋々拾おうと席を立った。その瞬間、僕は赤ペンを取り「vagina」の文字を丸で何十にも囲った。
彼女がペンを拾い立ち上がろうとしていたので急いで辞書をバタンと閉じ、何事も無かったような顔をして黒板の方を向いた。
「はい」とぶっきらぼうな声で手をぐいっと差し出した彼女に
「あ、あぁありがとう。あと辞書も」と言って辞書を彼女の机にすっと戻した。
彼女が着席し、僕と同じ黒板の方を向いて少したったとき
「・・・メロンパン」と言ってきた
「・・・ん?何が?」
「追加で、メロンパン」
「追加?なにが?それはペンを拾った事による礼を追加のメロンパンでしろってことか?」
「当たり前でしょ?」
「でもそんな取引はしてなかったぞ?」
「あのねぇ、取引とかそんなんじゃないの、恩を売られたんならそれを返す、それが人情でしょ?財布を拾ったら1割貰う。そーゆーもんよ」
「拾っても1割も貰わず財布を返す方が人情なんじゃないのか?」
「そんなことしたら誰も財布を交番に届けなくなるわよ」
人情とはそんなものなのか?と不満に思っている時、黒板の方から
「うるさいぞ。話すんだったら席を離せ」と先生が言ってきた。
「それダジャレっすか?」とクラスの男子が先生を煽り、少し間をあけてから先生は再び教科書を読み始めた。
僕はやはりまだ不満で、コーヒー牛乳はいいとして、このままだとなぜかメロンパンも買わなければならないことに腹が立ち、また悪戯をしてやろうか、と考えていたがこれ以上何かして僕の財布が薄くなると、きっと1割以上の損害になるな、と思いおとなしく授業を聴く事にした。
高校から10年経った今、僕はサラリーマンをしている。妻と呼べる人もできた。
先日取った年末の休みを使って帰ってきた実家は懐かしさがあり、どこか頼りなく古ぼけているような気がしたが、それでもしっかりと地に足をつけ建っていた。
妻は、母と父に挨拶をし終え、行く前から楽しみにしてた母とのおせち作りをする、と子供のように台所に駆けていった。
僕は終わりそうな仕事を終わらせてしまおうと自分の部屋に向かう。
ふすまを開けると何とも言えない懐かしい記憶と匂いが僕を包んだ。
机の上にパソコンを設置し仕事を始めた。少したってから英語の綴りが思い出せず、本棚に辞書があったかな?と思い手を伸ばす。辞書を開きパラパラとめくりだした時、書き覚えの無い赤い丸を目の端にとらえた。
「なんだ?」と思いその赤でくくられた英字に目をやると「penis」という単語だった。そしてその下の余白には
「仕返しだよばーか昼休み図書室でまつ」と赤いペンで書かれていた。
僕はその文字を見た瞬間から昔の記憶が、ぽつぽつと雨が音を立て、次第に地面を水がうっすらと覆うような感覚でよみがえってきた。
そういえば晴子は、いつの日からか昼休みにほとんど姿を見せなかった。昼休みになると晴子はそそくさと教室から出て行き、休み時間が終わるまで帰ってはいなかった。卒業式の最後の日にも晴子は昼休みにはいなかった。僕はてっきり委員会か何かが忙しいのかな、と思っていたが、あれはもしや僕の事を図書室で待っていたのだろうか?
そんなことを思っていると思わず口から吹き出してしまいそうになり、顔がほころんだ。なんだかすごくもったいない事をしたなぁ、と思ったが「まぁそれはそれでいいか」などと昔を思い出し独り言を言っていた。
そのとき後ろからふすまをたたく音がした。
「はいるよー。もうご飯出来たよ、すっごいおいしそうに出来たの!お父さんもお母さんも待ってるよ』
「あぁ、もうそんな時間だったんだ。全然気がつかなかった」
「?何持ってんの?それ。」
「ん?あぁこれ?英語の辞書。今使おうと思って」
「ふぅーん。早くおいで、ご飯冷めちゃうよ?」
「わかったって。てかちょっとここみてよここ。 これ」僕はその単語を指で指した。
「気づくの遅いよぉー。もぉー」
「気づくの遅くてごめんな。晴子。」
「コーヒー牛乳で手を打つけど?どう?笑」
完
0 件のコメント:
コメントを投稿